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コラム

指輪の製法によって仕上がりが変わる「鋳造」「鍛造」とは


バーバーを使って貴金属を溶かす

指輪には飽きのこないシンプルなデザインもあれば、豪華な宝石が装飾されたデザイン、また指輪のアームが太いタイプや細いタイプ、素材も金、プラチナ、銀などがあります。 

これらは私たちがジュエリーショップに行けば、それぞれの特徴を目で見て判断することが容易です。 

しかし、見た目はほぼ同じであっても、「鋳造(ちゅうぞう)」「鍛造(たんぞう)」という2つの製法で異なる指輪が存在していることをご存じでしょうか? 

もしかすると、その言葉を聞いたことがある方やそれらの作り方を何となくご存じの方もいらっしゃるものの、具体的に理解している方は少ないかと思われます。 

実は指輪を長く使っていく上で重要なポイントにもなっていますので、今回は指輪の製造方法の「鋳造」と「鍛造」について紹介していきます。

 

 

鋳造」と「鍛造」の違いとは

プラチナの結婚指輪

 

指輪の作り方には、「鋳造」「鍛造」2種類の製法技術があります。 

この鋳造と鍛造という言葉を指輪購入時に聞いたことがる方もいれば、学校の社会や歴史で学んで覚えていらっしゃる方もいるでしょう。 

場合によっては部活などで学んだり実際にやったことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。 

ではそれぞれどのような製造過程になるのでしょう?

 

 

鋳造とは

溶かした貴金属を流し込む

 

鋳造とは、鋳型(いがた)という金属を流し入れる型を作り、溶かした金属を鋳型に流し込んで冷やし固めて作る製法で、鋳造で製造されたものを「鋳物(いもの)」と言います。 

鋳造は紀元前3600年頃のメソポタミアで始まったとされており、日本では弥生時代から鋳造が行われていたようです。 

鋳物は私たちが普段よく目にするものがあり、マンホールや車のホイール、お寺の鐘、フライパンなど多岐にわたり、自動車や飛行機、船などの部品も鋳造で製造されています。 

ちなみに奈良の大仏は世界最大の鋳物の仏像なんですよ。 

 

では鋳造で作る指輪の工程ですが、ロスト・ワックス・キャスティング法と言われる製法で作られています。 

 

①まずはシルバーなどを使って原型を作ります。 

②シリコンゴムを敷き、その上に①で作った原型を置き、さらにシリコンゴムを被せます。 

③シリコンゴムをホットプレス機で加圧・加熱します。 

④硬くなったシリコンゴムの側面をメスで切り開き原型を取り出し空間を作ります。 

⑤空間にワックス(ろうそくのろうのような材料)を注入します。 

⑥シリコンゴムの中で固まった原型ワックスを取り出します。 

原型ワックスの周りを石こうで固め熱を加えワックスを溶かし鋳型を作ります。 

できあがった鋳型に金、プラチナ、銀などの材料を溶かして流し込みます 

冷やして固まったら石こうから取り出します。 

宝石をセットしたりきれいに磨いたり仕上げをして完成です 

 

ほとんどの指輪はこのロスト・ワックス・キャスティング法で作られており、宝石のセットや研磨仕上げは職人さんの手によって行われます。

 

 

鋳造のメリット・デメリット

 

鋳造のメリットは、型さえ作れば1度に複数作ることができ、コストを抑えることができます。 

硬い金属を直接加工するのではないので自由度が高く、複雑で繊細なデザインを作ることも可能です。 

 

デメリットは、鍛造に比べると耐久性が落ちます。 

そうそう曲がることはありませんが、あまりにも細い指輪なら曲がってしまうこともあれば、溶かした金属を型に流し込むため気泡ができたり、密度にむらができたりする可能性があります。

 

 

鍛造とは

金属を熱して叩く作業

 

鍛造とは、金属を熱して叩く作業を何度か繰り返し、金属を鍛えながら作っていく製法で、日本刀などを作っている鍛冶屋さんを思い浮かべるとわかりやすいと思います。 

鍛造の歴史は古く、紀元前5000年前とも紀元前6000年前とも言われており、日本では鋳造と同じ時代の弥生時代から行われていました。 

鍛造製品で身近なものは包丁やはさみ、爪切り、スプーン、ナイフ、タイヤのホイールなどがあります。 

鋳造と同じく自動車や飛行機、船などの部品も製造されています。 

また、鍛造には大きく分けると自由鍛造と型鍛造の2種類があります。

 

自由鍛造で作る指輪の工程

①ローラーという道具で貴金属を棒状に伸ばして叩いてを何度か繰り返します。 

②余分な部分をカットします。 

③棒状になった貴金属を曲げてリング状にし、端と端を溶接します。 

④形を整え、宝石をセットしたり磨いたり仕上をして完成です。

 

型鍛造で作る指輪の工程

①貴金属を溶かしローラーで加圧・圧縮して板状にします。 

②板状になった素材をドーナツ型の形に打ち抜きます。 

プレス機でドーナツ型の穴を少しずつ絞っていき、穴の周りを起こして立体的にし、指輪の形に成型します。 

④形を整え、宝石をセットしたり磨いたり仕上をして完成です。

 

自由鍛造は職人さんの手によって作られ、型鍛造はプレス機などの機械を使い、宝石のセットや研磨は職人さんの手によって行われます。 

型鍛造は継ぎ目がないため、自由鍛造に比べ同じ鍛造でも強度が高くなります。

 

 

鍛造のメリット・デメリット

 

鍛造のメリットは自由鍛造、型鍛造ともに金属を鍛えて作るため密度が高く鋳造よりも耐久性が優れています。 

そのため、鋳造と比較しても変形しにくく、磨いた時はより一層輝きが増します。 

 

デメリットは硬い金属を直接加工するため、複雑で繊細なデザインを施すことが難しく、シンプルなデザインになることが多いです。 

また、鋳造に比べコスト面は高くなり、製作期間も長くなります。 

特に自由鍛造は職人さんの手によって一つひとつ丁寧に作りあげるため、型鍛造に比べ時間を要することが多く、場合によって納品までに数カ月かかることもあるそうです。

 

鍛造指輪のサイズ直し

指輪をカットして溶接

 

金属を叩いて鍛えているため密度が高くなっている鍛造の指輪はサイズ直しができるのでしょうか? 

一般的にサイズダウンする場合は一部分をカットして接合し、サイズアップする場合はカットした箇所に金属を足して接合するので、製法が異なっていたとしてもサイズ直しすることは可能と言えます。 

ただし、注意が必要です。 

サイズ直し前後で見た目は変わりませんが、接合した箇所の密度やサイズアップにより足した金属の密度が違うため、鍛造の指輪が鋳造と同じ耐久性になってしまうこともあります。 

また、使われている金属の素材や、その素材の純度によっても硬さが異なるので、場合によってはサイズ直しができない指輪もあります。 

 

サイズ直しは指輪のデザイン、宝石の留め方や位置などによって出来ないことはもちろんのこと、製法によって耐久性が低下することもあれば、そもそもサイズ直しが不可能な指輪もあるようなので、購入前にはしっかりと確認してみてください。

 

 

最後に

 

指輪の作り方には鋳造と鍛造の2種類があり、それぞれメリットデメリットがあるので一概にどちらの指輪がいいとは言えません。 

とは言え、結婚指輪など生涯身に着ける指輪やシンプルなデザインで毎日着けたいのであれば、変形や曲がり、傷の付きにくさから、鍛造の指輪がもっとも適しているかもしれません。 

その一方で、繊細な指輪を着けて指をきれいに見せたい、お洒落に見せたい方であれば、鋳造の指輪を選ばれると良いでしょう。