地球上で発見された鉱物は4700種ほど存在しています。
その中でも美しく耐久性に優れ希少性があるものだけが宝石として定義されており、市場に流通しているものは100種類ほどと言われています。
ただ、生物の活動によって生み出された宝石がいくつかあります。
動物由来の宝石には「珊瑚」「真珠」などがあり、お持ちの方もいらっしゃるでしょう。
その他には植物由来の「琥珀(こはく)」があります。
「琥珀色」という言葉があり、ウィスキーの色を例えるのに使われることもあれば、日本の有名な詩人である童話作家の宮沢賢治は琥珀を用いた短歌を多数詠んでおりました。
今回は宝石の中でも植物由来の珍しい琥珀について紹介していきます。
琥珀とは
宝石であるダイヤモンドなどは地中深くでマグマの熱気や高圧力がかかり、冷え固まった結晶が宝石になります。
琥珀は古代の樹木の樹液が冷え固まり樹脂となり、この樹脂が地層に埋もれ数万年から数百万年かけてコーパルと言われる半化石化状態となって、さらに3000万年以上という長い年月をかけ化石化したものになります。
しかしすべての樹木の樹液が琥珀になるわけではありません。
現在のところ、古代のスギ科針葉樹、マメ科広葉樹の数種類しか確認されていないようです。
琥珀には内包物が含まれていることが多く、気泡、葉っぱ、花だけでなく、アリ、ハチ、蚊、トカゲ、カエル、カタツムリなどの昆虫や小動物が内部に混入していることがあります。
これらは、樹脂が土の上に落ちる際に、昆虫や小動物をカプセル状に包み込みそのまま化石化するからです。
このように昆虫や小動物を閉じ込めたものを「虫入り琥珀」と呼び、コレクターや生物学者に人気があります。
琥珀の歴史
紀元前3700年頃のエストニアから琥珀で作られたペンダント、ビーズ、ボタンが、エジプトからは紀元前2600年頃の宝物が発見されています。
日本では北海道千歳市にある柏台遺跡から約2万年前に作られた紐を通すための穴が開いている小玉が見つかっています。
18世紀頃までのヨーロッパでは「太陽のかけら」「人魚の涙」が海岸に打ち上げられたものだと信じられていました。
昔の人々は、2つある太陽のうち1つが海に落ちてしまい海岸にたどり着いたものを「太陽のかけら」、海の神であるポセイドンの末娘が王子との悲しい結末となった恋愛で流した涙が固まったものを「人魚の涙」として言い伝えられていました。
当時は北方の金といわれ大変貴重で、同じ重さの金と交換されたり、健康な奴隷1人が交換されていたようです。
琥珀の歴史の中で特筆すべきはロシアのエカテリーナ宮殿にある壁一面琥珀で装飾が施されている「琥珀の間」です。
1716年プロイセンのフリードリヒ・ヴィルヘルム1世からロシアのピョートル大帝にプレゼントされ、世界8番目の不思議と言われました。
その後ピョートル大帝の子孫たちにより部屋の改良や拡張が加えられ、エカテリーナ2世がロシア西部の都市サンクトペテルブルグから南東25kmに位置するエカテリーナ宮殿へ移しました。
しかし、豪華で煌びやかな琥珀の間は、第二次世界大戦中サンクトペテルブルグに侵攻したドイツ軍によって持ち去られ行方不明となります。
1979年から琥珀の間の復元作業が開始され、24年後の2003年に復元し、今日では観光スポットとして人気があります。
名前の由来
琥珀という和名の由来は中国からきており元々は「虎魄」と書き、「魄」は「魂」を意味し、虎の魂が死後に石になるという言い伝えからきています。
英語では「アンバー(amber)」と言い、語源はアラビア語で海に漂うものを意味する言葉「アンバール」で、元々は龍涎香(りゅうぜんこう)を指す言葉だったようです。
ちなみに龍涎香とは、マッコウクジラの腸内でできる結石である香料の一種で、燃やすといい香りがするそうです。
その他の地域の名称は・・・
ドイツでは「ベルンシュタイン」と言い、燃える性質があることから燃える石という意味からきています。
ロシアは太陽の石という意味で「ヤンターリ」、ギリシャは太陽の輝きという意味で「エレクトロン」と呼ばれ、英語の「電気( electricity )」の語源になったようです。
日本の岩手県久慈市では「薫陸香(くんのこ)」「薫陸(くんろく)」と呼ばれていたそうです。
琥珀の原産地
産地は世界の各地にあり、ポーランド、ロシア、リトアニア、デンマーク、ドイツ、ノルウェーのバルト海沿岸が世界の埋蔵量の3分の2を占めており、中でもリトアニアとポーランドに挟まれた飛地領ロシアのカリーニングラードが現在世界最大の産出量を誇ります。
その他には、イギリス、イタリア、ミャンマー、メキシコ、ドミニカ共和国、インドネシア、中国などがあります。
琥珀の世界三大産地はバルト海沿岸、ドミニカ共和国、日本の岩手県久慈市と言われています。
バルト海沿岸で産出される琥珀はバルティックアンバーと呼ばれ、色の豊富さと埋蔵量の多さが特徴です。
ドミニカ共和国は黄褐色している琥珀に紫外線を当てると青色に変化する大変希少なブルーアンバーのほか、虫入り琥珀も多く産出され、日本の岩手県久慈市では、量のスケールは各国に劣りますが、赤味のある茶褐色、黒色、縞目模様や虫入り琥珀など、質の良いものが産出されます。
琥珀の価値
価値基準にはカラー、クラリティ、カット、カラット、産地の5つの基準があります。
まずカラーですが、色は200色以上あると言われており、薄い色よりも赤い濃い色の方が価値が高くなり、その中でもブルーアンバー、レッドアンバー、ロイヤルアンバー(乳白色)は希少性が高く、供給量が少ないため価値が高くなります。
クラリティは放射線状のヒビが入っているものがあり、このヒビを太陽のスパングルやグリッターと言い、本物の証であることから価値が上がります。
また、虫入りの琥珀は3倍ほど高くなり、虫の状態や種類などによってはそれ以上の価値になることもあれば、トカゲやカエルなどの小動物になると10倍以上となります。
カットの中で価値に影響するのがファセットカットやカボションカットで、これらをカットするためには大きな琥珀の原石が必要になるため価値がつきます。
カラットは他の宝石と同じで大きいほうが価値が高く、バルト海沿岸で産出された琥珀は高値で取引されています。
琥珀の特徴
琥珀は他の宝石と違い植物由来の唯一の宝石であり、虫や植物、動物が内包されているのが最大の特徴と言えます。
また、カラーバリエーションも豊富で、その他にもさまざまな特徴があります。
■非常に軽い宝石
多くの宝石は比重が2~4の値を示しており、飽和食塩水(水に塩を入れてこれ以上塩が解けなくなった状態の塩水の事(比重:1.10))に入れると沈みますが、琥珀の比重は1.04~1.10しかないため飽和食塩水に入れても浮かびます。
要は、同じ大きさの宝石であっても、2分の1~4分の1ほどの重さしかありません。
■静電気
静電気を帯びる性質があります。
しかし、電気を通さないので絶縁体として使われていたこともあるようです。
■融点が低い
元をたどれば樹液なので、熱に弱く150度で柔らかくなりさらに熱(融点:200~380℃)を加えると溶けてしまいます。
ちなみにダイヤモンド3,550℃、サファイア2,040℃、ルビー2,050℃の融点なので、如何に低いかが分かります。
■熱伝導率(熱の伝わりやすさ)
鉱物である宝石とは違い熱伝導率が低いです。
ただし、熱伝導率が低いため、他の宝石のような冷たさはなく温かみを感じます。
■蛍光
蛍光は弱めですが、ブラックライトに当てると模様のように見えます。
まれに強い蛍光によりネオンブルーやマリンブルーに見えることがあります。
琥珀の取り扱い
硬度は10段階で2~2.5と非常に軟らかく、指の爪で傷つけることもできる程度です。
そのため傷が付きやすく欠けやすいので、ぶつけたり落としたり、衝撃を与えないようにしましょう。
長時間光に当てたり、化粧品や香水、ヘアスプレー、化学薬品などに触れると変色する可能性があるため、身に着ける場合はお出かけの準備が整ってから身に着ける必要があります。
また、熱に弱いので、火やお湯にも注意が必要です。
お手入れは、静電気を帯びる性質があるため、柔らかい布で軽く拭きます。
もし、汚れが目立つようであればぬるま湯で軽く洗い流し、水分を拭き取り乾燥させてください。
超音波洗浄機やスチームクリーナーなどは絶対に使わないようにしましょう。
保管の際は高温多湿や直射日光が当たる場所は避け、個別に箱や袋に入れて保管すると良いです。
最後に
古来より宝石はアクセサリーや工芸品、魔除け、お守りとして身に着けられてきました。
その中でも琥珀は、ロシアで飲み薬や塗り薬として使用され、1980年に建設された琥珀海岸という名のサナトリウムがあります。
サナトリウムでは医学的治療のほか琥珀を敷き詰めた床に寝転んだり、琥珀を使った健康器具でマッサージを行うことによって外傷の治りを早めたり、人々に癒しを与える効果があるようで国内外から年間10万人が訪れるそうです。
このように琥珀は装飾品や虫入り琥珀のような歴史的価値だけではなく、実は私たち人間の健康を成り立たせる役割が大きいかもしれません。